税務調査に来る調査官はいろいろいます。
調査官次第で調査の期間が変わったり税額が変わったりすることもあります。
もちろん上司にはその日の調査が終了するたび逐一報告することになりますが、しょせんは調査官にどれだけの力量があるかです。
私もそれほど税務調査は得意ではありませんでしたが、当初から上司にこれだけは絶対するなと言われていたことがあります。
それは、「帳簿書類はいきなり見るな!」です。
なぜこう言ったのか、そして後々これは正しいということがわかってきました。
ここでいう帳簿書類とは、総勘定元帳や請求書・領収書などの書類だとお考え下さい。
事業概況を聞かずいきなり帳簿書類をみる調査官
税務調査当日は以下のような流れになることが一般的です。
時間 | やること |
午前10時から昼前まで | 事業概況を聞く |
昼過ぎから午後16時まで | 帳簿書類をみる |
もし2日間ある場合は、1日目がこの流れになり、2日目は午前中から帳簿書類を見ます。
まず、調査官として帳簿書類を見ていくのは当然なのですが、事業概況をどれだけしっかり聞き取って確認するかが実は一番重要だったりするのです。
事業概況で代表者や事業主から聞く項目として、
- 業務の内容
- 取引先の情報
- 仕事の受注や請求・入金の流れ
- 現在までの仕事の経緯
- 家族状況
- 申告書をどのように作成しているか
が挙げられます。
これを聞き取らずにいきなり帳簿書類を見始めるなんてもってのほかなのです。
なぜなら、帳簿書類はもう紙としてすぐ目の前にあります。
しかし、調査での目的は正しく申告しているのかの確認です。
もしかしたら会社・事業主が意図的に売上を計上していないとか、経費を水増ししていることもあるのです。
帳簿書類だけをいくら見たって分かるはずがないのです。
事業概況を聞くことで、不審なところはないか疑問点はないかを確認していくことが重要なのです。
正直午前中だけでは足りないこともあります。特に大きな会社だと、業務の流れが複雑になって確認しなければならないことも多いからです。
そして、そもそも会社・事業主が時間を取っていただいているにもかかわらず質問もせずにいきなり帳簿を見始めるのは失礼だと思うのです。
どういういきさつで創業したか、特に自分が知らない業種の話を聞くことも必要です。
最近、調査の件数が増えているためか調査1件あたりにかけられる日数が少なくなってきています。
私が調査をしていたときより半分くらいしか時間が取れていないようです。
そのため、若手の職員ほど事業概況を聞かず午前中の早い時間から帳簿書類を見始めるのです。
そして上司も事業概況を聞いてきたかと問うこともしなくなってきています。
上司も忙しいので、部下の報告を受けるのも適当になってきているようです。
私が調査をしていたころは、調査に戻ると報告に相当な時間をかけていました。
一番注意されたのは、この事業概況をよく聞き取ってこなかったことです。
調査官の仕事として、誤りをいかに多く見つけるかが業務成績の判断になります。
もちろん帳簿書類を見るだけでも多少の誤りは分かります。しかし、不正や脱税をしている事実はこの帳簿書類からは明らかにならないことがほとんどです。
もし会社や事務所に調査官が来られて、いきなり帳簿書類の確認をし始めたらそれほど深い調査にはならないでしょうし、たいした誤りも見つからないでしょう。ラッキーです。
事業概況から不審点をあぶりだす調査官
一番やっかいだなと思う調査官は、調査官としては優秀です。
事業概況だけをずっとやっているわけではなくて、事業概況から不審なところはないかをうかがっている調査官が一番やっかいでこわいです。
世間話からスムーズな形で事業概況を聞き出したりします。
なぜなら、調査される側は世間話で安心しきってしまい余計なことを話してしまいがちだからです。
不審なところはないかを聞き出すのが事業概況の目的です。
これに時間をある程度取る調査官はやはり不正を発見する率は高いです。
おしゃべり好きな調査官もいます。しかし、そうでない調査官も事業概況にしっかり時間をかけていると怖いかもしれません。
まとめ
税務調査をしていた時に、事業概況はしっかり聞くべきだと教えられてきました。
しかし、ある後輩が事業概況は聞いたことがないとか、時間をかけていないことを言っていたことを思い出して「それは止めたほうがいいよ」とアドバイスしたことがあります。
時間的な制約もありますので、以前のように深い調査ってできなくなっているのかもしれません。
しかし、いきなり帳簿書類を見るのは正直誰だってできます。
そもそも帳簿書類だと関与されている税理士がいれば税理士が確認しているはずです。
そこをいくら見たって不正や不審点は出てこないのです。
調査初日に事業概況をそこそこに帳簿書類を見始めた調査官がいたら、ラッキーと思いましょう。
それくらい調査官の力量が分かる物差しのひとつです。
では。
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