新型コロナウイルスに関して、労働者災害補償保険法(労災保険)の適用が認められるのかどうかというのが話題になっています。
厚生労働省のホームページには「新型コロナウイルスに関するQ&A」として、情報提供を行っています。
今日はその内容について書いてみたいと思います。
あくまでこの記事は、投稿時点での内容で記載させていただきます。
労災保険とは
概要
- 業務災害(仕事によるもの)と通勤災害(通勤によるもの)に対して保険給付
その他の災害については、健康保険の対象 - 労災保険の保険料は、全額会社や個人事業主負担(労働者は負担なし)
- 労働者を1人でも使用していれば、原則強制
ただし、個人経営の農林水産業で、常時5人未満の労働者を使用する場合は任意
(ポイント)
「法人は業種問わず強制適用。個人は一部任意あるもほぼ適用。」 - 国家公務員や地方公務員は、他の法律があるため原則労災適用なし
- 労災が適用される労働者は、雇用形態(常用・日雇い・アルバイトなど)を問わない
保険給付(業務災害)
- 負傷、疾病:療養補償給付、休業補償給付
- 障害:障害補償給付
- 死亡:遺族補償給付 など
労災が認められる「業務災害」とは
業務災害とは、労働者が労災保険の適用がある事業場(会社や個人事業主)に雇われて、その会社や事業主の支配下にあるときに、業務が起因となって発生した災害をいいます。
つまり業務災害は、
「支配下にある(業務遂行性といいます)+業務が原因で発生(業務起因性といいます)」
で認められることになります。
「業務遂行性」は「業務起因性」の有無を判断する前提とされるために、「業務遂行性」がなければ「業務起因性」は成り立ちません。
「業務遂行性」は、会社などの労働者であれば満たすことがほとんどです(一部除外されますけど)。
したがって、「業務起因性」つまり業務が原因で発生したかどうかが検討されることになります。
しかし、条文上は具体的にこれが業務災害だというものはありません。
個別の事案ごとに業務の実情を調査して、「業務起因性」が認められれば、労災保険の給付対象になるというわけです。
新型コロナウイルスに関する労災適用について
では、今回の新型コロナウイルスに労働者が感染した場合に労災が適用になるのかどうかについて、厚生労働省ホームページの内容からポイントをあげてみたいと思います。
ちなみに、下記Q&Aでは「一般の方向け」「企業(労務)の方向け」「労働者の方向け」などと、対象者ごとに分けられていますが、
労災保険については、「企業(労務)の方向け」と「労働者の方向け」を見るといいと思います。
*頻繁に更新されているようです。
厚生労働省ホームページ 新型コロナウイルスに関するQ&A(労災補償)
- 労働者が新型コロナウイルスに感染した場合
業務に起因して感染したものであると認められる場合には、労災保険給付の対象
- 医師や看護師(医療従事者)や介護従事者が、新型コロナウイルスに感染した場合
業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象
- 医療従事者や介護従事者以外の労働者が、新型コロナウイルスに感染した場合
他の疾病と同様、個別の事案ごとに業務の実情を調査の上、業務との関連性(業務起因性)が認められる場合には、労災保険給付の対象
- 感染経路が判明し感染が業務によるものである場合、労災保険給付の対象
- 感染経路が判明しない場合であっても、労働基準監督署において、個別の事案ごとに調査し、労災保険給付の対象となるか否かを判断する
- 感染経路が判明しない場合であっても、感染リスクが高いと考えられる次の業務に従事していた場合、潜伏期間内の業務従事状況や一般生活状況を調査して個別に業務起因性を判断する
(例1 複数の感染者が確認された労働環境下での業務)
〇本人含め2人以上の感染が確認された場合(本人以外の他の労働者が感染している場合、施設利用者が感染している場合など)
〇同一事業場内で、複数の労働者の感染があっても、お互いに近接や接触の機会がなく、業務での関係もないような場合は当たらない
(例2 顧客等との近接や接触の機会の多い労働環境下での業務 )
具体的には、小売業の販売業務、バス・タクシー等の運送業務、育児サービスなど
- (例1)(例2)に示された業務以外の他の業務でも、感染リスクが高いと考えられる労働環境下の業務に従事していた場合には、潜伏期間内の業務従事状況や一般生活状況を調査し、
個別に業務起因性を判断する
労災を請求する場合
労働者が新型コロナウイルスに感染したとして、労災請求する場合、
労災請求手続きは、労働者本人(請求人)が行っていただくことになります。
しかし、請求人が保険給付の請求などの手続きを行うことが困難である場合、事業主として請求人の症状を確認しつつ、適宜請求書の作成等の助力をお願いします、と書かれています。
なお、この事業主による助力は、労働者災害補償保険法施行規則第23条に規定されており、「手続きができるよう助力しなければならない」と義務が課せられています。
労災請求の状況
新型コロナウイルスに感染した労働者について、労災請求があり実際支給決定された件数について
Q&Aの参考資料として添付されています。
新型コロナウイルス感染症に関する労災請求件数等(令和2年7月10日 18時現在)
申請件数は545件、決定件数は111件となっています。
申請しても2割しか決定されていません。(3週間前は1割程度でした。)
法整備をした以上、もっと決定してもいいような気がします。
まとめ
他にも、新型コロナウイルスに感染した場合に、雇用調整助成金など会社や事業主に給付が行われるものもあります。
新型コロナウイルスに感染した場合には労災適用になりますが、毎年冬に流行するインフルエンザに感染しても原則労災適用になりません。
同じ感染症としてなぜ扱いが違うのか議論の余地はありますが、現状は新型コロナウイルスの感染について法整備などが進められています。
新型コロナウイルス関連についての情報は、ホームページで随時更新されている状況です。
保険給付がされるものは、申請ができる状況であれば積極的に利用したいものです。
では。
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