税務調査の傾向と調査ポイント

今回は、数日続いている税務調査関連記事の最後。

国税庁では、毎年税務調査を行った際に、調査事績の概要と、こういう業種や個人に重点的に調査をしたという「重点項目」や、不正や申告漏れ所得が多い業種などを公表しています。

国税庁ホームページ 国税庁報道発表資料

今回は、平成30事務年度(平成30年7月~令和元年6月)の情報に基づき、調査の傾向と調査ポイントについて書きたいと思います。

*法人税・消費税・所得税の各調査について書きたいと思います。
(相続税調査は報道発表資料に掲載されていますのでご確認ください。)

また、この発表資料では、調査件数や申告漏れ等の非違件数、非違割合、申告漏れ所得金額と追徴税額など、さまざまな数値が掲載されています。

特に重要なのは、「非違割合」、次に「申告漏れ所得金額」です。

非違割合とは、調査件数のうち申告漏れ等の誤り(非違)があった割合のことです。

申告漏れ所得金額は規模の大小により大きく増減します。

あとの詳しい数値は報道発表資料をご覧ください。

引用:令和2年版 税務必携タックスファイル 大蔵財務協会

所得税調査

所得税調査では、実地調査(特別調査・一般調査・着眼調査)と簡易な接触が行われています。

まず、それぞれの言葉ですが、

①実地調査:高額・悪質な不正計算が見込まれる事案を対象

②特別調査:多額な脱漏が見込まれる個人等を対象に、相当の日数(1件あたり10日以上を目安)を確保して実施

③着眼調査:資料情報や申告内容の分析の結果、申告漏れ等が見込まれる個人を対象に、実地に臨場して短期間で行う調査

④簡易な接触:原則、納税者宅等に臨場することなく、文書、電話による連絡または来署依頼による面接を行い、申告内容を是正するもの

をいいます。

平成30事務年度における所得税及び消費税調査等の状況について

平成30事務年度 調査事績の概要

調査件数 申告漏れ非違件数 非違割合
実地調査(特別調査・一般調査) 50,130件 44,176件 88.1%
実地調査(着眼調査) 23,449件 16,788件 71.6%
簡易な接触 537,076件 312,916件 58.3%

ここで確認したいのは、

実地調査(特別・一般)は、事前に多額かつ悪質な不正計算が見込まれるという想定のもとに行われますので、当然非違割合も9割近くになります。

簡易な接触でも非違が発生するわけで、文書でのおたずねや電話接触で誤りが見つかることもあるということです。

所得税調査の傾向

重点項目として、以下の4つが挙げられています。

  1. 富裕層
  2. 海外投資家
  3. ネット取引
  4. 無申告者

ここでは、「ネット取引」と「無申告者」に注目かなと。

インターネット取引を行っている個人に対して資料情報の収集・分析を行い、積極的に調査が行われています。

また、自発的に適正納税している納税者に対して不公平感をもたらすこととなる無申告者を、的確かつ厳格に対応するべく積極的に調査を実施しているということです。

ネット取引で得た収入を計上しない、申告しない。無申告につながっていくわけです。

ちなみに、こういう調査事例があります。

①会社員が自身のホームページに企業広告を掲載することにより得ていた収入(アフィリエイト収入)に関して、給与と併せて確定申告をする必要があったが、申告していなかった。

②多額の利益が生じていることを認識しながら、作成していた書類を意図的に破棄し申告を不正に逃れていた

事業所得を有する個人の1件当たり申告漏れ所得金額が高額な5業種

  1. 風俗業
  2. キャバクラ
  3. 経営コンサルタント
  4. システムエンジニア
  5. 特定貨物自動車運送

調査のポイント

次のような個人は、税務調査の可能性が高いと想定されます。

①売上げの伸びが著しい好況・売上げを低く抑えて申告していると想定される

②利益率の変動が大きく、所得金額が低い

③売上げに比べて経費の支出が多額

④前回調査で不正な税務申告を指摘された

⑤申告漏れ所得金額が高額な業種で、同業者に比べて申告事績が低い

⑥海外からの収入や多額の利益を得ているにもかかわらず、それらを申告していないことが想定される

法人税調査

平成30事務年度 調査事績の概要

平成30事務年度における法人税の実地調査は、

調査件数99千件 申告漏れ等非違件数74千件 非違割合74.7%でした。

昨年より0.2%増加しているようです。

4件に3件は誤りが見つかっています。

ここで、申告件数に対する実地調査件数の割合(実調率)は、3.4%であるとのこと。

すごく少ないように感じますが、年間約10万件前後で調査がされています。

平成30事務年度 法人税等の調査事績の概要

法人税調査の傾向

重点項目として以下の3つが挙げられています。

  1. 海外取引法人等(法人税)
    海外取引を行っている法人の中には、海外の取引先へ手数料を水増し計上するなどの不正計算を行うものが存在しています。
    このような法人に対して、国外送金等調書などの資料情報により深度ある調査を実施しているということです。
    調査件数15,650件 非違件数4,367件 うち不正件数646件
  2. 海外取引法人等(源泉所得税)
    非居住者や外国法人に対する支払について、国外送金等調書などの資料情報より重点的かつ深度ある調査が実施されています。
    (非違の内容)①人的役務提供事業29% ②使用料等21% ③給与等18%
  3. 無申告法人に対する調査
    事業を行っているにも関わらず申告をしていない法人を放置することは、納税者の公平感を著しく損なうため、登記情報等により無申告法人を把握し的確に管理し調査しています。
    実地調査件数2,683件 うち意図的な無申告法人488件 前年より増加

不正発見割合の高い&1件当たり不正所得金額が大きい5業種

(不正発見割合)

  1. バー・クラブ
  2. 外国料理
  3. 大衆酒場、小料理
  4. その他の飲食
  5. 自動車修理

(1件当たり不正所得金額)

  1. 輸入
  2. その他の化学工業製造
  3. 産業用電気機器工具製造
  4. パチンコ
  5. その他の卸売

調査のポイント

次のような法人は、税務調査の対象となる可能性が高いと思われます。

①売上げの伸びが著しい好況

②利益率の変動が大きく申告所得が低調

③売上げに比べて経費の支出が多額

④海外子会社を有し海外取引が多い

⑤代表者のワンマン経営で経理が脆弱

⑥前回調査で不正計算を指摘された

⑦不正発見割合の高い業種で同業者に比較して申告事績が低調

先ほどの所得税調査と同様のものもありますが、④と⑤は法人税特有かなと。

最近の調査では、従来の帳簿・原資記録中心の調査手法に加えて、経理や営業担当のパソコン調査(特にメール)なども実施されています。

また、不正計算を指摘する場合には、事実関係の正確性を示すために原則「質問応答記録書」が作成されます。

さらに、海外取引やネット取引については、資料情報の収集が図られています。

消費税調査

平成30事務年度 調査事績の概要

個人事業主 法人
調査件数 38千件 95千件
申告漏れ等非違件数 32千件 56千件
非違割合 84.2% 58.9%

個人事業主の消費税の申告漏れが目立ちます。

消費税調査の傾向

重点項目として、「消費税還付法人」と「無申告者」に対する調査が挙げられています。

虚偽の申告により不正に還付を受けようとするケースがあるため、厳正な調査が実施されています。

実地調査件数の全体は減少している一方、大口・悪質な不正計算が想定される法人に対して調査が実施された結果、ここ数年間の追徴税額が増加傾向にあります。

調査件数6,553件 非違件数3,687件  うち不正件数829件

また、無申告は、自発的に適正納税をしている納税者に強い不公平感をもたらすことになるため、的確かつ厳格に対応すべく積極的に調査が実施されています。

個人事業主 法人
調査件数 9,631件 1,999件

 

ここで、消費税の調査事例として、

虚偽の契約書を作成し、架空の課税仕入れを計上する手口で、不正に消費税の還付を受けようとしていた。

ゲームアプリの配信を行っている国外事業者の消費税が無申告となっていた。

というものがあります。

消費税調査のポイント

消費税の非違事項(誤り)には、

  • 連動非違:所得税や法人税の誤りに連動して生ずるもの
    (例:売上計上もれ、仕入過大計上、経費の過大計上、経費の繰上計上)
  • 固有の非違:所得税や法人税の誤りと連動しないもの
    (例:課否判定誤り、課税標準額の計算誤り、仕入税額控除の計算誤り、課税売上割合の計算誤り、簡易課税制度の適用や計算誤り)

の2つ種類があり、連動非違は、所得税や法人税の調査の対応の一環で消費税にも当てはまる一方で、固有の非違は、消費税独自の視点からの対応が求められます。

また、制度手続きの適用についても確認されます。

  • 課税事業者の判定や課税事業者の選択
  • 簡易課税制度の選択 など

まとめ

今回は、税務調査の傾向と調査ポイントについて書きました。

「国際」「インターネット」「無申告」というキーワードが多く出てきたような気がしますね。

この傾向はしばらく続くと思います。

私が在職しているころから「無申告」だけはずっと重点項目で消えていません。

それだけ無申告者には厳しい態度で、というのがあるのでしょう。

これらの情報を踏まえて、調査の対策を考えていく必要があるのかなと思います。

では。

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