税務職員として勤務していた15年間のうち、半分は源泉所得税事務を担当していました。
内部事務が中心でしたが、質問対応や年末調整説明会、未納状態の源泉徴収義務者(会社や事業主)への電話督促などをやっていました。
この事務をしていたからですが、法人課税部門の職員という肩書とは違った所得税の知識も得ることができましたし、社会保険労務士の試験を受験しようと思ったきっかけをいただきました。
他にもいくつか気がついたことがありますので今日はそれを書きたいと思います。
法人調査で源泉所得税は後回しになりがち
法人税等調査は、法人税・所得税・源泉所得税(印紙税も)を総合的に調査します。
中小法人の調査では、通常、調査官1人で2日間程度お伺いして基本的にこれらの内容を確認していきます。
初日の午前中は事業概況などをお聞きして、午後からようやく各税法の調査を行うのですが、どうしてもメインは法人税が中心になってしまうのです。
特に初日は売上項目、2日目で仕入や経費項目となり、残った時間で消費税や源泉所得税となります。
したがって、どうしても源泉所得税は最後ちょっと確認するくらいで終わってしまうのです。
よく、法人税調査で社長が売上を意図的に除外して個人的に使っていた場合、不正行為となり重加算税がかかります(かなり重い罰金)。
さらに、個人的に使っていたということでその分は社長に給与(賞与)が支給されたと考えるため(認定賞与といいます)、追加で源泉所得税が徴収されることになります。
また、消費税も給与と判断されれば課税仕入れには含まれないために、消費税も追加で徴収されます。
これを「連動非違(れんどうひい:法人税から連動した誤り)」といい、これは税務調査でよくあるパターンとなります。
他にも、個人に対して支払っていた報酬が給与ではないか、と判断され消費税と源泉所得税が追加徴収されることがあります。
これに対して、法人税に関連せず源泉所得税のみ影響が出る場合もあり、これを「固有非違(こゆうひい)」と言ったりします。
例えば、非居住者に支払ったものに対して源泉徴収していなかった、給与を支払う際に税額計算を間違えた、報酬料金を支払ったが源泉徴収していなかった、などがあります。
調査の限られた時間の中で、正直固有非違を指摘する時間は少ないかもしれません。
もちろん、調査の上手な方はそこまで時間配分を考えていますが。
ただ、あくまで後回しになりがちというのは一般論でして、調査官は事前に下準備をして効率的に調査をします。
また、調査時にも経費の帳簿を見るついでに源泉所得税の有無も一緒に確認したりします。
なので決して徴収漏れを隠すとかは絶対しないでくださいね。
固有非違は実は見つけやすい
その固有非違ですが、源泉所得税が課税か課税されないかの判断は意外とはっきりしており、法人税のようにグレーな部分が多いものではありません。
しかも支払った時に課税するのが源泉所得税ですので、基本的に元帳に計上されている科目(特に経費)をチェックし、源泉所得税の預り金部分を確認して計上の有無を確認するだけです。
また、扶養控除等申告書と源泉徴収簿を確認すれば年末調整計算の誤りなども分かります。
さらに、調査までに源泉所得税を納付しているか税務署内でデータを確認しているので、明らかに納付がなければ狙いを定めて調査ができるわけです。
私は、法人調査の時は連動非違ばかりでしたが、源泉所得税担当になってから固有非違の方が見つけやすいなと思ってしまいました。
知っているか知らないかの世界
長年源泉所得税事務をされていた先輩から聞いた話です。
「源泉所得税は知っているか知らないかの世界だ」と。
質問対応している時も思ったのですが、非居住者の源泉所得税は特にそれが色濃く出ますね。
支払ったものが源泉徴収必要だったとか。
給与などは年末調整事務をされている方はご理解されている方が多いのでそれほど大きな誤りになることはありません。
報酬料金はたまにご質問いただきましたが、多いのは非居住者関連でした。
金額が大きくなるものは要注意
先ほどの非居住者に対しての支払いは結構多額になったりしますし、退職金や配当金を支払ったときも源泉所得税が発生すると多額になりがちです。
もし支払ったのに源泉所得税の納付の事実がないと「あれ?」と不審に思うわけです。
もちろん、その時はその根拠資料や計算資料をきちんと用意し、結果源泉所得税はかからなかったことを説明すればいいのです。
金額が大きな支払いはどの税目でも注意です。
税務調査を受けるにあたって私なら
もし税務調査を受けることになったら、源泉徴収の有無を確認する際には経費帳の内容をチェックしますね。
明らかに見つけやすいですし。。
あとは説明できるような根拠資料を確認したり、扶養控除等申告書などの各種資料をそろえておきます。
非居住者の支払があれば、送金依頼書や契約書・もし租税条約締結国との間の取引であれば租税条約に関する届出書・そもそも非居住者かどうかの判定のための書類とか。
①給与、②報酬、③配当、④退職、⑤非居住者は特に気を付けて確認します。
問題になるのはこれら5つが中心だと思いますので。
源泉所得税を納めていない義務者=資金繰りに相当困っている
源泉所得税が納付できていない義務者に電話や文書で督促をします。
給与が主ですが、源泉所得税は給与から天引きし預かって納付するのが通常です。
しかしそれが納付できない。つまり預かっているお金まで使ってしまい納税資金がない状態に陥っているのです。
相当事業継続に苦しんでいる義務者ばかりで、そこに納付してくださいと督促をしなければならないのです。
職員にとってこれが辛いところ。もちろん納め忘れてたとかなら仕方ないのですが、経営も苦しいのに税金を納めなければならない辛さは痛いほどよく分かるのです。
なんども電話で責められました。「倒産するかもしれないのに納めなければならないのか!」と。
会社に問い合わせして連絡が取れないときは、税理士や税理士担当事務員に連絡を取りますが、正直困っているという感じです。
源泉所得税は、給与などは支払ったら源泉徴収することになっています。未払状態なら原則源泉徴収しません。賞与や配当は一定期間未払でも源泉徴収しますが。
また、源泉徴収したら一括で納付するのが原則ですが、もし納付ができない場合は税務署の徴収部門と相談の上分割納付の手続きを取ることができます。
あまりに事業資金に困っている場合は、まず税務署に相談しましょう。
黙っていたら未納付状態がずっと続いてしまって解決困難になってしまう恐れがあります。
まとめ
今回は源泉所得税事務をやっていて気が付いたこと、特に税務調査と源泉所得税という預り税金の特徴からくる問題点について書いてみました。
書類や納付書の書き方については、これまでの記事でもご紹介していますが事前に問い合わせたりすることができますよね。
しかし税務調査が始まってしまったり、源泉徴収すべきなのにしていなかったとなると問題になってしまいますし、未納付が続くと大変です。
事前にできることは税理士や税務署に相談することです。
特に今はコロナのこともあり納税資金も心配しなければなりませんから。
では。
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